今回、「Leadership Live Japan」に出演するゲスト、Ridgelinez株式会社の執行役員 Partner鬼束孝則氏をお迎えし、現職のキャリアや仕事観、やりがい、魅力などについて語ってもらいました。

変化を恐れず、進化を楽しむ:私のキャリアストーリー
私は日本IBMで33年間にわたりキャリアを積んできました。
スタートはハードウェアのエンジニア。そこからITスペシャリスト、プロジェクトマネージャーへとステップを重ね、やがてソリューションのオファリング責任者として、サービスの企画・推進・プロモーションを担当するようになりました。
その後、グローバルプロジェクトのリーダーや、IT部門の統括など、より広い視野と責任を持つポジションへ進み、技術とビジネスの橋渡し役として多くの経験を積んできました。
2020年8月、私は新たな挑戦としてRidgelinez(リッジラインズ)に合流。
テクノロジーグループの責任者として、次世代のデジタル戦略を推進してきました。そして2024年4月より、CIO(最高情報責任者)として、全社のIT戦略とデジタル変革をリードしています。
一番大変だった、でも一番誇れる:私が挑んだグローバル改革
私にとって最も思い出深く、同時に最も大変だったプロジェクトのひとつが、前職・日本IBM時代に手がけた、契約管理システムのグローバル標準化プロジェクトです。
対象となったのは、社内で最も歴史があり、複雑なレガシーシステム。保守契約に関わる全ての情報を管理するこのシステムは、全社員はもちろん、協力会社やエンジニアなど、関係者が非常に多く、影響範囲も広大でした。
このプロジェクトには、9か国から集まった多国籍メンバーが参加し、約4年間にわたって取り組みました。単なるシステムの刷新ではなく、グローバルでの業務プロセスの統一、契約書の再設計、そして関係者全員への影響を考慮した運用設計など、まさに全社的な変革でした。
文化や言語、業務慣習の違いを乗り越えながら、共通のゴールに向かって進む日々は、困難の連続でしたが、それ以上に多くの学びと成長をもたらしてくれました。
この経験は、単なるITプロジェクトの枠を超え、「変革とは何か」「人と組織をどう動かすか」を深く考えるきっかけとなり、今の自分のリーダーシップの礎にもなっています。
人の心を動かすという仕事:グローバルプロジェクトの本質に迫る
先程、説明したように、私がこれまでに携わった中で、最もスケールが大きく、そして最も難しかったプロジェクトのひとつが、前職で手がけた契約管理システムのグローバル標準化でした。
全社員と関係会社を巻き込む全社的な取り組みであり、実装期間は4年に及びました。
影響範囲が広大であったため、プロジェクト開始の1年前からお客様に通知し、準備を進める必要がありました。
このプロジェクトで最大のチャレンジとなったのが、「チェンジマネジメント」でした。
単にプロジェクトを進めるだけでなく、関係者のマインドを変え、変革を前向きに受け入れてもらうための丁寧なコミュニケーションが求められました。特に、プロジェクトの成否を左右するキーステークホルダーに対しては、早期に接点を持ち、意向を把握し、不安や懸念を解消することが重要でした。
このプロジェクトは、コーポレート部門として初めて本格的にチェンジマネジメントの手法を適用した事例でもあり、そのノウハウは後に全世界のプロジェクトマネージャーに共有されました。
私自身、プロジェクトの9割は「コミュニケーション」だと実感しています。
現在の職場でも、この経験はDXプロジェクトに活かされています。DXは短期間で大きな変化をもたらすため、抵抗感も大きくなりがちです。だからこそ、プロジェクト立ち上げの初期段階からキーステークホルダーを特定し、信頼関係を築くことが成功の鍵となります。
変化が大きいからこそ、人の心を動かす力が必要になる。
それが、私が現場で学び、今も実践し続けているチェンジマネジメントの本質です。
サービスと一緒に、自分も売り込む:顔が見える責任者の挑戦
前職時代、私が初めてサービス責任者として任されたプロジェクトは、知名度の低い新しいサービスを社内外に広め、ビジネスとして成長させるというものでした。
当時の私はまだスタッフの立場。サービスも私自身も、社内での認知度は決して高くありませんでした。
そんな中、ある先輩からもらった一言が、私の行動を大きく変えました。
「このサービス=鬼束、鬼束=このサービスだと、周囲に印象づけろ。逃げられないように腹をくくれ。」
私はその言葉を胸に、サービスの顔として前面に立つことを決意しました。
共通の問い合わせ窓口や代表メールアドレスは使わず、すべて自分のメールアドレスと携帯電話で対応。誰に連絡すればいいのかが明確になり、社内外の関係者から「顔の見えるサービス」として信頼を得ることができました。
問い合わせは増え、対応に追われる日々でしたが、その一つひとつに丁寧に応えることで、「鬼束に頼めば何とかしてくれる」という評価が広がり、結果としてサービスのスケールアウトにもつながりました。
この経験は、単なる業務遂行ではなく、「自分自身がブランドになる」という覚悟と責任感の大切さを教えてくれました。
そして今もなお、どんなプロジェクトでも顔の見えるリーダーシップを大切にしています。
より具体的なCIOの仕事観、やりがいや魅力に焦点を当て、リーダーシップやITリーダーへの効果的なアドバイスなど、鬼束氏に話を聞きました。詳細については、こちらのビデオをご覧ください。
現職のやりがい、魅力について:
私が現在の会社、Ridgelinez(リッジラインズ)に転職したのは2020年。まだ立ち上がって間もない、知名度も高くない時期でしたが、そこにこそ大きな魅力を感じました。
前職の外資系大手企業(日本IBM)では、「ロール&レスポンシビリティ(役割と責任)」が明確に定められており、自分の担当領域を超えて動こうとしても、組織の評価軸にはなかなか反映されませんでした。
しかし、Ridgelinezでは違いました。
立ち上げ期の会社だからこそ、「何でもやらなければならない」環境があり、同時に「何でもできる」自由さがありました。
お客様視点に立ち、必要だと思うことを自ら考え、動き、形にしていく。役割の枠を超えて全体をカバーすることでこそ、お客様に本当に価値を届けられる。
そう実感できたとき、自分のこれまでの経験やスキルがすべて活かされているという手応えがありました。
「自分の力を最大限に発揮できる場所」──それが、今の職場です。
そして、そうした環境こそが、私にとっての最大のやりがいになっています。
リーダーシップに関して、成功するCIO(およびマネジメント層)に必要なことは何ですか?
私がCIOとして日々意識していることは、大きく2つあります。
ひとつは「新しい領域にどんどんチャレンジすること」、もうひとつは「素直になること」です。
新しいことに挑戦するのは、誰にとっても勇気がいることです。特にCIOという立場になると、IT運用費の増加など現実的な制約が多く、新しい取り組みに踏み出すことが難しくなりがちです。
それでも私は、「未来のビジネスを生み出すには、今チャレンジするしかない」と信じ、一定の割り切りを持って前に進むようにしています。
もうひとつの「素直さ」は、特に大切にしている姿勢です。
社会人になると、「わからない」と言うのが難しくなります。でも、わからないことを素直に認め、「教えてください」と頭を下げることで、周囲の知見を得ることができ、自分の理解も深まります。
これは前職時代、あるサービスの責任者を任されたときの経験から来ています。
まったく未知の領域で、最初は何をどう整理すればいいのかもわからず、周囲に聞いても答えが得られない。ようやく自分なりに半年かけて整理したものを関係者に共有したところ、「それ、使わせてもらってもいいですか?」という声が次々に上がりました。
「わからない」と言える勇気が、学びを深め、周囲との信頼を築き、結果として組織全体の理解を促す力になる。
挑戦と素直さ。この2つが、私のリーダーシップの根幹を支えています。
ITリーダーを目指す人たちにどのようなアドバイスをしますか?
2024年4月にCIOを拝命して以来、私が強く意識しているのは、社内のITに携わるすべての方々に対するリスペクトと、その方々がやりがいを持って働ける環境づくりです。
IT部門の多くは、日々の運用やトラブル対応といった“泥臭い”仕事を黙々と支えています。そうした現場の努力があって会社の基盤が成り立っているにもかかわらず、どうしても「コスト」として見られがちです。
私は、そうした現場の方々の目線を少しでも上げていくことが、CIOとしての最も重要な役割のひとつだと考えています。
たとえば、限られた予算の中でも、10万円、20万円でもいいと思います。外部のセミナーやイベントに参加してもらい、外の世界に触れてもらう。新しい知見を得て、それを社内に持ち帰り、実装してもらう。
そうした小さな外向きの一歩が、やがて大きな変化を生み出します。
新しいことに挑戦するには勇気がいります。だからこそ、現場の方々が安心してチャレンジできるような環境を整えることが、私のリーダーシップの根幹です。
ITは単なる裏方ではなく、未来をつくる力を持っている。その力を信じ、支える人が輝ける組織をつくっていきたいと思っています。
今後の御社の展望であるとか、中長期的な取り組みについて
今、私が強く意識しているのは、「この会社は何のために作られたのか?」という原点に立ち返ることです。
Ridgelinezは、親会社の支援を受けて立ち上がった会社ですが、設立から5年が経ち、いよいよ新たなフェーズに入ろうとしています。
これまでは親会社のインフラやシステムを一部間借りしながら運営してきました。ある程度の規模で立ち上がった企業にとって、初期投資や運用の負債は避けられないもの です。しかし、今後はそこから脱却し、自立した組織としての基盤を築いていく必要があります。
そのうえで、私たちにはもう一つの大きな使命があります。それは、親会社のビジネスにも貢献していくことです。
私たち自身が実験場となり、スピード感を活かして新しいソリューションやテクノロジーを社内で実証し、それを親会社に展開し、さらにその知見をお客様に届けていく。そんな価値の循環を生み出すことが、私たちの存在意義だと考えています。
たとえば、生成AIの活用もその一つです。多くの企業がまだスタディの段階にとどまる中で、私たちは「補完」ではなく「置き換え」に踏み込む領域を見極め、実際に動き始めています。
その成果をスケールアウトさせるために、親会社からの出向や親会社への展開の仕掛けも積極的に進めています。
そして、次の目標は会社規模をさらに拡大して組織を成長させること。
そのためにも、今こそ原点を見直し、新たな挑戦を積み重ねていくフェーズにあると感じています。